アウトドアと飯のあれ

神奈川→富山在住のアウトドアと飯と旅行のあーだこーだ

2019年7月16日 上市町④伊折集落

前回の続き。

 

上市町中心地から東へ約15km

剱岳早月尾根への登山拠点、馬場島はアウトドアフィールドとして栄え、

清流濯ぎ木陰揺蕩う夏になれば、キャンプ客や登山者の往来で賑わいを見せる。

そのすぐ手前に、町内最東端の山村集落がある。

 

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現行。

伊折(いおり)集落。

現在の世帯数0戸、人口0名。(上市町H30住民登録人口)

 

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緊迫感。

地名の由来は町誌でも語られていないが、

世捨て人や尼僧が用いる、質素な草葺の小屋『(いおり・あん)』か。

実際に県南部の山間でも『庵谷』の地名が存在する。

どことなくそういった雰囲気を感じさせるところだ。

(PS.『折』は崩落地のこととされる。)

 

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集落上部。かつての耕作地を植樹したものか。

草分けは永禄9年(1566)、

木地屋(「きじや」。木目そのままの器類の作成を生業とした木工集団のこと。)の一団が

蓑輪(下流域の滑川市蓑輪)から現地へ移り住んだとされているが、

それより以前から居住していた者がいたと云われる。

 

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集落へ向かう道。

真言宗行者の正善なる者が、松倉城落城(桃井尚常斯波義将に大敗)の際に当地へ避け、

正善坊を創設したのが応永年間(1394~1427)。

半世紀以降の文明3年(1471)真宗に帰依して寺号を本誓寺として永きに鎮座し、

現在同名の寺が上市町中心部に所在している。

 

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『剱せせらぎの小径』は周回1.5km弱の簡単なトレッキングコース。

伊折

かつては90戸もあり、炭焼と出稼ぎが盛んであった

                                                                               (『角川地名辞典』)

(PS.当時90戸450名が所在していたとある。)

日々の耕作と薪炭の搬出だけでなく、若者は通年麓へ出稼ぎに向かった。

今ですら中心地へ30分近くかかる道だ。昔はどれほど大変だっただろうか。

言わずもがなの豪雪地帯ではあるが、それ以上の問題が治水にあった。

 

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清流の早月川。雨天時にはその景色を一変させる。

集落と市街地を分断する早月川は国内屈指の急流河川であり、

古来は大伴家持に詠まれ、万葉集にもその名が記されている。

この川を跨いで集落を行き来する伊折橋は、昭和半ばまで木造架設であり

時折豪雨により流出したと町誌で語られている。

 

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村社 伊保里神社。徳川時代歓請とされる。明治期に神明社・八幡社と合祀。

山越えの林道が設けられていたので、完全な陸の孤島となることはなかったろうが

日々の暮らしで相当に困難を強いられたことと見える。

現在のコンクリート橋は昭和42年に着工し、3年を経て竣工したもので、

以後流出の懸念もなくなり、登山客や工事車両が日々利用している。

 

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昭和50年代の伊折。

(PS.白萩東部小学校伊折分校の位置を追加。)

集落には小学校・中学校それぞれ分校が1つずつ存在した。

白萩東部小学校伊折分校は伊折巡回授業所(明治9年開校)を前進に創立。

100年近くに渡り集落の学童を支え、冬季分校を経て昭和53年閉校した。

 

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中学校分校の講堂。昭和30年落成。

昭和27年には白萩中学校伊折分校も校舎落成したが、昭和50年閉校となった。

(PS.閉校時には白萩中学校は上市中学校へ統合済み。)

近隣の蓬沢集落の中学生も当地へ通学して共に勉学に励んだ。

残存する『立山剱岳遭難対策協議会』所有の土地のトラック置場は、

在りし日の白萩中学校伊折分校の講堂を用いたものである。

 

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合祀済みの神明社跡。

現在伊折には飲食店が1店舗経営するのみであり、当日は生憎営業外だった。

剱岳の登山でまた通ることがあれば、その時違った景色を見てみたいと思う。