立山黒部アルペンルートの営業が開始する4月中旬、
室堂は我先に雪を踏まんとする数多の人で賑わいます。
毎年雄山に登っていますが、蟻の行列の如く連なるのは気が進まない。
となれば、常々気になっていた雄山東尾根へ。
初日の行程は短いので急ぐ必要はない。
こんなに遅く室堂に入ったのは初めてかもしれない。
写真もそこそこ、休憩所で肉まんを食ってから黒部平へ。
下ノ廊下以来の再訪。
適当にグルッと回って尾根へ取り付く。雪もまだ固め。順調。
尾根は真っ新で今シーズン一番乗り。
左手には大観峰駅。静寂の雪稜にロープウェイのアナウンスが響き渡る。
正午に差し掛かると雪の様子も悪くなってきた。アイゼンに換装。
基本的には尾根をそのまま辿るので悪場は皆無。
春の雪稜闊歩は暖かで至福のひと時。
アルペンルートの開通と共に大勢賑わう室堂とは対照に、
雄山の東面は殆ど訪れる人がいないパラダイス。
観光客に追い回されたライチョウが、ここで羽を伸ばしているのだろう。
黒部の冬の何と深いことか、とより一層感じられる。
景色に歩みを止めざるを得ない好ルートだ。
しかし撮影に向く好物件はもっと上の方。幕営にはまだ早い。
この対比の構図は今回のお気に入り。
大自然の懐の深さの前では人の営みなど、こんなにもちっぽけ。
鉄塔ピークから更に進んだ2250m地点、斜度も増し雪が一気に緩む。
この先で雪壁を登るのだがこれでは少々リスクが高い。
割り切ってここで行動終了。斜面を切り崩して幕営地とした。
夜は風が強いだろう。
スノーマウント(かまくら)を構築しようと思ったが、雪が緩くて向かない。
雪洞も気乗りしない。素直にテントを設営して一段落。
向かいに見えるのは鳴沢岳かな。
荒々しい岩肌を携える針ノ木岳は意外と眺める機会がないので新鮮。
それこそ立山以外じゃ殆ど見たことないんじゃなかろうか。
近くて遠い、遠縁の親戚のような。
黒部源流の銀嶺は美しい谷と深い森林を携えて、嫋やかな顔を向ける。
この二週間前に行った北ノ俣岳は奥に隠れているが。
この時期になれば、スキーヤーも頻繁に訪れるだろう。
雄山東尾根と双璧を成す?東面の雪稜 丸山中央山稜の末端は雪割れが激しい。
つんと尖った内蔵助峰はどことなく惹かれる。
諸々の作業を進めて日が暮れ始めると、一気に雪面がガチガチに固まってきた。
春の雪は少し目を離せばガラリと一変する。
これなら容易に雪壁を抜けられるだろう。
明朝の快適は約束されたようなものだ。
それまで穏やかだった風も、夜にはかなり強く吹き荒れる。
狭い斜面に張ったのは失敗だったが後の祭り。
若干の後悔から目を背けて横になっていると、いつの間にか深く寝入っていた。
次回へ続く。