前回の続き。
5:00起床。幕の湿気りもなく快適に撤収を済まし5:50出発。
昨日多めに進んだ分、足取りは軽やかに。
かつての往来を辿り、山を乗越て中木へ。
このトレイルは個人的に最も「古道らしさ」を感じる区間で、
集落間で行交った人の靴音が聞こえてくるようだった。
風見の為に登ったであろう往時を想う。
福永武彦『海市』の冒頭のようなドラマチックな出逢いがあったかもしれない。
こん日ではすでに下賀茂温泉から車で行けるが、以前はいうまでもなく、
妻良あるいは長津呂から船によらねば訪れることはできなかった。
永い年月、孤島とおなじ環境におかれたこれらの部落には、
辺境の地のみがもつ特別の雰囲気があり、いまでも磯釣りにくる人たちに
それを感じさせる。
(安斎秀夫『伊豆』)
陽が山を乗越して、千畳敷に仄かな灯りが燈る。
凪の海はどこまでも穏やかな釣り日和。
連休最終日となれば皆帰り支度をしているのだろう、
行き通う人も居ないウバメガシの森を歩む。
航海の無事を祈り念仏を唱えた洞を過ぎれば下り坂。
寺の裏に出て階段を駆け下りれば、小さなガイドが道案内をしてくれた。
中木と言えばヒリゾ浜、南伊豆でも大人気のダイビングエリア。
抜群の透明度を誇り、シーズンには関東から大勢押し寄せるとか。
近年になって世に広まり、今は観光客も繁く訪れる南伊豆だが
昭和のインフラ整備がそれに寄与したことは想像に難くない。
富んだ地味と天産を持っていながら、世に顧られないのは、
「新しい道」が開かれないからであろう。
―あゝ「道」「新しい道」、これは独り地方風土の問題ではない。
真実な芸術がその真実を伝える上に、やはり第一に必要なものは「道」である、
「新しい道」である。
(荻原井泉水『南豆雑記』)
ともすれば下関へ行くよりも掛かる
当時の南伊豆のアクセスの悪さが景勝を不出としていると説いた。
尤も、中木~長津呂へは迂回する車道に比べて山道の方が早いので
重荷を持った婦人が通ったりしたらしい。
蜘蛛の巣を除け、キビ畑に迷い込んだような道を進めばトレイルは終わりだ。
30分程車道を歩む。流石にまだ早朝で車通りは殆どない。
やがて坂を下れば見えてくる、白い灯台、3日の旅の終着点。
綺麗なデッキを渡る。
全く知らなかったが石廊崎周辺は恋人の聖地として知られているらしい。
うんうん、つまり僕には縁がないってことだな。
さて、散々海を見てきた3日間だったが、ハチの巣のような凝灰岩の風化は
また違った雰囲気があり、見ていて面白い。
岩壁穿って嵌め込まれたような神社に腰を下ろし、
旅の無事と感謝を告げる。
展望台からは大島・利島が薄明の奥に見え…離島の旅というのもしてみたい。
個人的に旅したい式根島も近い。この辺りにまた来る日は近いかもしれないな。
その帰る途中で、神社に思いっきり頭を打ち付けて悶絶。
全く以て縁結びに縁はないと諦め、足早に下田行きのバスに飛び乗った。
小一時間で下田に着けば、後は食事と観光の時間だ。
下田の名所を回るならレンタサイクルがマスト回答。
写真映えするペリーロードでアイスコーヒーやバニラアイスを食べ歩き。
暑さも払ってサイクリング。
昼飯は下田で人気という魚料理店。地物の刺身や干物、本当に美味かった。
近くの干物店から卸しているらしい。
富山まで持ち帰るのは難しそうだが、通販で購入してみようかな。
下田は日帰り入浴施設に乏しいが、
なまこ壁で堂々とした立派な温泉銭湯がある。旅の疲れをゆっくりと癒した。
その後は暫く観光地から逸れて閑静な浜辺を眺めたり。
昼中に戻って電車に飛び込み、19:30頃に富山へ帰着した。
「また行きたくなる旅」というのを常々念頭に置いているが
正にそのような3日間を過せた、静岡の旅。
海辺ならではのスタイルで進むロングトレイル。
次回はパックロッドも持っていこうか…うーん物欲が溢れ上がる。
おわり。