やあ。
暖秋で思うように紅葉が進んでいませんが、
そろそろ暦の上では冬の到来が見え始める頃でしょうか。
眠れない真夜中には小説を読んで活字の海を泳ぐのが好きです。
そして僕の好きな本の聖地が岐阜県にあるので行ってきました。
さて、今回は天生(あもう)湿原で紅葉トレッキングです。
今回のスタート地点は飛騨北部の天生峠。
泉鏡花の代表作『高野聖(こうやひじり)』の舞台となったことで知られる地です。
飛騨から信州へ越える深山の間道で、ちょうど立休らおうという
一本の樹立も無い、右も左も山ばかりじゃ、
手を伸ばすと達きそうな峰があると、その峰へ峰が乗り、巓が被って、
飛ぶ鳥も見えず、雲の形も見えぬ。
帰省の列車で『私』は高野山の僧侶と意気投合し、旅の道連れで同宿することに。
床に付いても眠れない夜中、僧侶が若かりし頃の体験談を聞かされます。
それは険しさで名高い飛騨の天生峠にて起きた、恐ろしくも妖しい怪奇譚でした。
この僧侶は蛇が大嫌いで、僕はそれにシンパシーを感じてしまいました。
蛇がいるとその道を歩きたくなくなる気持ち、分かるなぁ。🐍
そうそう、話は少し変わりますが、登山者の難敵ヤマビル。
このヤマビルは地を這い動物に食いついて吸血するわけですが、
長い間『樹に登り、獲物が通り過ぎると落ちて吸い付く』と言われていました。
しかしこれは最近の研究によって間違いとされています。
実際ヒルの濃い表丹沢では、落葉が蠢くほどの山もあるそうですが
血を吸うグロテスクな生態がいつしか噂に噂を重ねて広まったのでしょう。
一説ではこの『尾びれ』の元ネタが、この小説ではないかと。
何にしても恐しい今の枝には蛭が生っているのであろうと
あまりの事に思って振返ると、見返った樹の何の枝か知らず
やっぱり幾ツということもない蛭の皮じゃ。
これはと思う、右も、左も、前の枝も、何の事はないまるで充満。
私は思わず恐怖の声を立てて叫んだ、すると何と?
この時は目に見えて、上からぼたりぼたりと真黒な痩せた筋の入った雨が
体へ降かかって来たではないか。
想像もしたくないホラーな情景が眼に浮かぶようです。
鏡花の文は読んでいると物語の中に引きずり込まれてしまう。
物語では鬱蒼として魔窟の如き森の中ですが、
現在では紅葉トレッキングスポットとして名高い天生湿原。
この日は曇りかと思っていましたが、存外に晴れ間も見えて心地良い暖かさ。
しかし、この鮮やかな紅葉が終わる頃には誰も立ち寄れなくなります。
ここへの道、国道360号線天生区間は11月より冬期通行止めに入るからです。
間もなくこの湿原も深い雪に閉ざされますが、実はこの山間にも
古く住んでいた人が大勢いました。それが天生金山です。
天生峠から東へ向かうと、実在した集落の礎石等が今も残されているそう。
かつて1日に小判7枚ほどの金が取れたと言われ、
鉱山関係書物には『家数千軒余』とも記されていました。
しかし今から約90年前、村は災害に見舞われます。
天生金山跡
昭和7年(一九三二)大山崩れによって甚大な被害をうけた。
(『岐阜県の地名』)
その後何某の会社が暫く経営を続けて、コンスタントに金を産出したそうですが、
昭和22年に敢え無く閉山。
飛騨の奥地に集落があったことなど、今では殆どの人が知らぬことになりました。
昔の人が追い求めたゴールドラッシュに負けないくらいの、
煌びやかな紅葉の原生林。
いつまでも後世に残したいものですね。
原生林の奥へ行くのは、また日を改めることにして帰ることに。
紅葉が絶不調と言われる今年ですが、飛騨は人気(ひとけ)も無くて
今が見頃の知られざる名スポットです。
今年の紅葉は飛騨を中心に回ってみようかなぁと思いました。
おわり。