前回の続き。
4:00頃まで吹き続けた暴風雨ははた、と止んでいた。
今日は昼中からにわか雨らしい。一通りビニール袋にブチ込んで6:00発。
水捌けが良いのだろう、豪雨後と思えぬほど土は乾いている。
前日の残雪や氷は殆ど溶けて流されたようだ。
夜が白む頃、茶屋跡に着く。
大股から歩き詰めた人々にとって、この茶屋はまさにオアシスだったろう。
ここから暫し苦しい水平道とのお付き合い。
小辺路は専ら高野山側から辿られるが、三浦側から来た場合更に苦しそうだ。
しかし樹林帯で見所が薄いかと言えば決してそんなことはない。
年の瀬の白海に浮かぶ群島を眺め、本年の締め括りがここで良かったと再認識。
ようやくリズミカルに標高を落とせるようになる頃、
霧を突き破って眼前に朝日が届けられる。
スリップに気を配りながら石畳を降りる。
丁度出発から3時間が経つ頃に車道と合流した。
深い霧が向かう先を翳らす。
年の瀬からか殊更静かな空気が漂う集落、大きく腰を落として暫し休憩。
自販機で燃料補給をし、三浦峠へと750mの登り返し。
日本の心に根差したような、苔生す小径を踏み締めて。
喧騒遠く外れた人家、深き山谷に小鳥の声が響く。
杉の九十九折は仕事径の名残、幾百年の跫音が伝わるようだ。
三浦峠には護摩壇山から稜線伝いに車道が延びている。
国内屈指の多雨地帯である和歌山・奈良県境。
豪雨災害が多く、且つ降雪は少ない当地においては合理的なのだろう。
取り留めのない思案で喉の渇きを紛らわせる。
殆ど涸れかけていたが、道中一杯の水が染み渡る。
2時間が経つ頃、峠の東屋で小休憩。
トイレも併設されるが吹き曝しで肌寒い。
さて、14:00のバスには問題なく間に合うし、
天気も思ったより保つ。宿まで9km歩いても明るいうちに着きそうだ。
明るいうちには着く旨を宿に伝え、ご機嫌な森を駆け下りる。
おっと、道中の史跡に触れるのもお忘れなく。
今は昔、この峠道には行きがけに泊まった旅人を罠に嵌めて
命と金品を奪う山賊が住み着いていたそうだ。あっ、それ良くゲームで見るやつ!
そこの物陰から「ここに来るべきじゃなかったな」とか聞こえてこないか。
柔らかな土の径を小走りで落とすこと1時間半。
やがて人工物が目立つようになれば、矢倉集落へ。
今も暮らす老齢の方がいらっしゃるようで、最近テレビ番組で取り上げられていた。
いくらもせず降れば国道425号線へ合流する。
バスまで30分以上あるし余力もあるので、このまま車道歩きを続ける。
悪路で有名な国道、所謂「酷道」であり、
非常に蛇行した線形と見通しの悪さが徒歩でも伝わってくる。
2km先の永井で食料を調達していると、ガラス戸を纏まった雨が叩きつけた。
ここまで酷く降ると撮影もできない。
さて、予報を見ると2時間は降り続きそうだ。R425はいずれ車で来る。
ここは割り切ってバスを待ち、またの機会に楽しもうじゃないか。
歩くには少々憂鬱な程の大雨を静かな車内で眺めること30分。
気が付けば十津川温泉へ到着。宿のある蕨尾で下車する。
風呂は激熱だが貸し切りタイプなので気兼ねがない。
3つの湯船がありこの日は2つを頂き、年末の蕎麦を食した。
明日はいよいよ目的地だが、どうも初日の出は拝めそうにない天気らしい。
少しのんびりしても罰は当たらないだろうと、20:00に就寝。
次回へ続く。