ギラつく陽射しで髄液も泡立ちそうな真夏日、平地にいるなんて自殺行為。
前夜有峰に入って就寝。夏でも夜は15℃、薄着では肌寒いくらい。
翌日折立を5:15発して林道を5km歩き、1時間で入渓点に到着。
明瞭な踏み跡を辿ると、前日から入っている釣り師2人と遭遇した。
挨拶を交わすと快く先を譲ってくれた。ありがたい。
堰堤を簡単に越えて入渓。新しい踏み跡があるが、多分前日のものかな。
岩井谷という名は適切だと思った。
壮大な岩と、盛んな奔流と、函のような深淵が連続して、
その頂点に名山の姿を配している。真川第一の美渓であり豪渓である。
(冠松次郎『山渓記 第1巻』)
何トンもの巨岩が所狭しと犇めき合うボルダーチックな渓、
開けた谷で明け方でも思ったほど寒くない。
水嵩も深場で腰上~腹程度。
尤もこれだけの巨岩を上流から押し流しているのだから、
豪雨時は正しく『岩摧き』と呼ばれるに相応しい水勢となるだろう。
時折薬師の深い森林に育まれた渓魚が跳ねる。
どうせへなちょこの腕では釣れないと竿を置いてきたのが惜しい。
入渓から1時間半で鳶谷出合を通過する。
左へ右へ渡渉しながら。越えられない程の巨岩も容易に巻ける。
翠玉色の渓水に目を惹かれながら遡って行けば、9:30 Co1560mの二俣。
引き続き本流を遡って行くこと30分程、Co1680mの支流の出合で大休憩。
ここから先のゴルジュがこの沢の核心部で、翌日の行程も考えると
この日までに抜けておきたいポイントだ。急ごう。
ゴルジュは左岸・右岸どちらでも巻けるとのことだが左岸は顕著な岩壁が威圧的。
どちらにせよ藪から逃れられないなら、取り付き易そうな右岸にしよう。
支流を200m上げようか考えたが、トラバースは出来るだけ短く済ませたい。
結局Co1740mの右岸草付きを上げていく。
鹿の糞も落ちていたので彼らの通り道でもあるようだ。
ドン突きの岩峰を乗越して下降…はとても気が乗らない笹薮のトラバースでパス。
崩れて崖になっている所も見えたので標高を30m程上げて様子見する。
深い笹の海を喘いで登る。雀蜂に纏われて肝を冷やしたが、
巣が近くにあるわけではなかったらしい。
笹の掻き分け方にもコツがあると学ぶ頃、降りられそうなポイントが見えてきた。
途端に藪が薄くなり、踏み跡らしきものを拾って下降していけば
滝上のガレたルンゼに出た。笹に埋もれて手足も切傷だらけだが、一安心。
2時間余りの大巻きだったので喉もカラカラ、暫し息を整える。
ゴルジュの大滝は一度下から眺めておけばよかった。次回の課題。
その後も続く小滝を越えながら歩くこと20分程、Co1835mに好物件を見つけた。
本日はここで幕営としよう。
砂地を整えたが深く埋まった大岩があり、結局横の礫地を整えることにした。
一段落して焚火も起こそうと奮闘したが湿気て上手く行かない。
はいはいいつものやつね。次からブンタキ持ってこよう。
幸い、日は射さないが暖かいので服はすぐに乾く。
昼兼夕のラーメンを食べ、滔々と流れる川の音色を聞きながら寝袋に包まった。
数時間起きに目が覚めるが、耳栓をしていればBGMも気にならない。
あと次は枕用に柔らかなタオルも持ってこようと思う。石が頭に当たる!
全く、猫又山を思わせるような寝苦しい一夜となった。
しかしこの寝苦しい鍛錬がいつかの冬に活かされるのである。きっと。
次回へ続く。