実は一発変換できる。
前回の続き。
開けた県道を走り、木陰の中に入って行く。
東坂下(さこぎ)集落。
世帯数5、人口17名。(H27国勢調査)
富山難読地名クイズ大会が催されれば真っ先に出てくるので、対策しておこう。
『サコギ』は小さい河谷のことである。
(『八尾町史』)
谷川(山岳の河川流域)を表す地方語が地名の由来となっている。
(狭+漕・扱?)
何故この漢字でこう読むのか。
何ということはなく、元々は『サコギ』に漢字を合わせて『坂下』だったのだ。
遠方から来る人には『サカゲ』とも呼ばれたそうだが、
近代に到って近隣の村との交流が栄えると、1つ問題が出てしまった。
実は近くに似た名前の『坂ノ下』(さかのした)があったのだ。
カーナビのない時代、これでは郵便の人が困ってしまうのは言うまでもない。🏣💦
「坂下に住んでます」と手紙が来て、遥々遠路友人を訪ねた挙句、
反対側に行ってしまえば笑い草にもならない。
これではどうにもややこしいから改名しようということで、郵便業務が開始される頃
坂ノ下の東にあるので、『東坂下』と名を変えたと云われている。
別に1つの集落が分化した訳ではないのに
一方の名前がもう片方に影響を与えるというのは、全国的に見ても稀な話だ。
『ヒガシサコギ』と記載されているが、そのまま『サコギ』で通じる。
漢字表記がややこしいだけで、読みで容易に区別できることから
ぶっちゃけると「東」でも「西」でも、「上」だろうが「下」だろうが
そこに然したる意味はなかったのだろう。
集落内の熊野神社。
熊野神社は根上(ねのうえ)・北谷・東坂下の隣り合う3集落にそれぞれ鎮座しているので、
何かしらの関係性があったものと推察する。
(PS.『富山縣神社誌』によるとそれぞれの歓請は
根上:承応3年(1654年) 北谷:天文18年(1549年) 東坂下:天正3年(1575年)。
いずれも明治初頭まで伊須留岐比古社を奉称していたが、その後熊野神社となったとされる。)
東坂下の神社は素朴ながら趣がある。
僕はこういう神社が好きだ。噛めば噛むほど美味しいスルメみたいな雅を感じる。
脇の石も何とも言えない味がある。
東坂下の棚田からは、地を這う涼しい風が吹き上げてきた。
幾許か熱気も飛び、爽やかな気分だ。