ここ数年恒例の、沢から百名山。
今年は初めての中央アルプス、木曽駒ヶ岳へ行くことにしました。
宝剣岳を源頭とする長大な渓、伊奈川を遡って。
4:45 倉本の イザルボテに到着。
既に車が7.8台停まっていてビックリした。釣り師が幾人か。
Co1700mに幕を張る予定らしいので
Co2000mまでポイントを荒らさず進むことを伝えて先へ進む。
中八丁峠(1576m)の登りは丁寧に刈払いされている。
峠の手前で子連れのクマと遭遇したが、賢い彼らが先に退いてくれた。
驚かせてごめんな。峠を15分も降りれば伊奈川だ。
伊奈川本谷は、中央アルプス中最大の谷で、
木曽谷にはめずらしく北から南に流れ、源を極楽平に発し檜尾、
熊沢、東川、空木、南駒岳とほとんど主稜の水を集め、
さらに越百川をも合して木曽川に落ちるのである。
(中京山岳会「中央アルプス (マウンテンガイドブックシリーズ ; 第37)」)
堰堤を巻いて7:10入渓。
かつてこの豊穣の渓には宝剣岳への登路が拓かれていた。
「伊奈川道」と呼ばれ、主に下りのルートとして用いられた。
開発が進む前は須原までかなりの距離を歩くことになった為、
専ら先述の中八丁峠を越え倉本へ抜ける登山者に用いられたそうだ。
谷沿いで荒れ気味だったそうだが、伊勢湾台風がトドメとなって廃れていった。
それから60年余。
今も左岸に往時の痕跡を望める、と聞く。
廃道を獣が再利用している例もある。そうやって維持されているのかもしれない。
さて、渓について。
非常に開けた谷で覆う森も煌びやかで美しい。
若干ゴーロ帯が長いが、逆に言えばどこでも歩けて難場はない。
岩井谷の上部に近いと言えば伝わるか。
ただ、魚影は少ない。
どうやら先行がいる。釣り向きの渓なら仕方ない。遅い自分のせいだ。
澄んだ翡翠のプールは自然の創る芸術。
稜線には若干重い雲が乗るが、終日雨の懸念はなかった。
テンカラに向く淵でアントを流してみるが難しい。
やはりスレているか、マッチしていないのか…。
昼を回る頃、泊地を探し始める。
翌日の行程や不意の驟雨を考慮するなら
出来ればCo2040mの二俣より先に行きたい…が、あまり良くなかった。
かなり早い段階で魚影が切れるのだ。
ここも近年釣り雑誌に取り上げられた結果、大勢が入るようになって
魚影も少なくなる一方らしい。
僕は釣るのが楽しいので基本C&Rだ。
どうせ山に入る以上、飯は自分で持ってきているし殺生する気が起きない。
かと言って彼らの全てを否定する気もないが。要は節度だ。
「生態調査」は叶わず、いい加減昼中を過ぎる頃。
これより上は寒くなるし、明るいうちに諸々を終えたい。
Co2120mに礫があるが独りなら困らない木陰がある。今夜はここで。
煙の香りに包まれ、持参したソーセージで晩飯。
深い森の中、日々の喧騒では感じられない孤独と解放感を肴に微睡む夏の夜。
滔滔と流れる渓の響きも気にならなくなる20:00、気付けば深い眠りに落ちた。
次回へ続く。